かの地で眠る古の人へ







「Opening my eyes and seeing the front, I burn the world into my eyes…hum」

 甲高い鳥の声と、柔らかく吹く風が心地のいい漁師の境界要塞の掲揚台にもたれかかるように座っている少女が一人。

 いつもなら、自分に見合ったパーティーを見つけて狩りに出かけて遊んでいるだろう。

 そんな時間に空の向こうに語りかけるように、祈るように歌う少女。名はカーディナルの大気という。

 紡ぎだされる歌声は、鳥たちのコーラスにのせられていく。

 鳥たちは、その歌声の主の周りをゆっくりと旋回していき柵の上で羽を休めたり、毛繕いしたりしていた。

「(あの時、どうして自分の身を投げうっていたのか、そして今あの場所に時折現れるアナキムはいったい…)」

 視線の向こうにはアデン領地の端にある使途のネクロポリスがあるはずだ。

 そこに眠る、リリスとアナキムに向けられるように大気は歌を紡ぎだす。

 大気が何故と思う理由には二つあり、一つは、クエストで訪れた過去に存在した使途のネクロポリスで戦ったリリス軍、

そして、自分ごと封印してほしいと頼んだ聖火の炎アナキムという美しい使者。

 二つ目は、現在において使途のネクロポリスに一定の周期で現れ出る、アナキムとリリスの事。

「(黎明と黄昏、か。不思議には思っていたけどねぇ)」
「lala…Light and the dark are born with the world, and exist with the world…」

 大気は、ゆっくりと目を閉じて思い起こすようにアナキムの澄んだ瞳を思い浮かべた。

 自分ごと封印してほしいと切羽詰まった様子で頼んできたアナキムの表情に、大気は息をのんだのを覚えている。

「でも…。今のあなたは、少し違う気がするの」

 歌をやめ、目を閉じたまま呟かれたその言葉は、今七つの封印のうちの一つである貪欲の封印が解かれた時に現れるアナキムの姿を描き出す。

 大気はゆっくりと目を開いて、一連のクエストを思い返してふるふると首を横に振った。

『あなたを待っていました!』
 そう言った時の、焦り切羽詰まった表情は一重にも綺麗と言えよう。

 けれど、実際アナキムの体はリリスやリリム軍勢の激しい攻防戦でいくつも傷が付き、痛々しいばかりだ。

 それはネフィリム軍勢を率いて攻撃を仕掛けられていたリリスにも言えることだが、攻撃の土煙や魔方陣などで、ほとんど見えてはいなかった。

 激しくぶつかるリリスとアナキムに、大気は「黎明のために」という命の元、封印装置を動かしてアナキムごと封印をした。

 それは決して褒められたものではないだろう、けれど黎明の人たちは封印した事に関しては言及しなかったし、

1300年前の場所にいた皇帝は、自分のためにその強力な力を使わないかと打診をしてきた。

「現在になって、現れたネクロポリスとカタコム、そして…アナキム」

 かの地に眠る1300年前の皇帝とそれを崇めていた人たちはどう思ったのだろう、そんな事を考えていた大気は、

ゆっくり立ち上がってキシっと音を立てる木の床を歩いて柵に手を置いた。

 今一度紡ぎだされるその歌声は、ヒューマンメイジの女性とは思えぬ声を持ち、柔らかく歌う。

 「We walk ahead to get a truth」

 その時、境界要塞の帰還ポイントに出てきた二人の少女。

「あれ、大気の声だ」
「ん?あぁ、ほんとだ。また上で歌ってるんじゃない?」

 二人は顔を見合わせ頷き合い、掲揚台の所まで駆けていった。

「大気が歌ってる時は、大概何かあるのよねぇ」
「でも、何もないような気がするけど?」
「だって、あの大気よ」

 その意味深な歌詞はなんだろうと、一人の少女は思ったに違いない。

 二人は掲揚台に近くなると、走るのをやめてキシ、キシと鳴る床を歩く。

「la…lala…woo…The world goes on, the fate also. Light and dark are always one.」

 大気がゆっくりと紡ぎ出すその声は、エルフのシンガーとはまた違った雰囲気を持つ。

 しばらく聞き惚れていた二人が、歌が終わったのと同時に声をかけた。

「たーいき!」
「あ、ゆな、えんじぇるもお帰り。鋼鉄の城に行ってたのよね」

 えんじぇるだすととゆなみー、この血盟にいる大気の友人であり仲間で、この二人にとって姉のような大気とは割と気さくな間柄である。

 ハイエロファントのえんじぇるだすとは頷いて、ダイナスティローブを鮮やかに翻し大気の肩をたたいた。

「どう?今日の稼ぎは」

 大気は掲揚台の入口で、荷物をどっさりと置いたゆなみーを見遣った。

 ゆなみーもえんじぇるだすとも、一度顔を見合わせてにこりと微笑んでから、大気に袋を開けて見せた。

「うっわー。相変わらずすごいねぇ」
「そう?」

 えんじぇるだすとは、満足満足と言った表情で大気の隣でスイ―プしたものや、ドロップ品の品定めを行っている。

「ねぇ、えんじぇる、ゆなみー」

 遠くを見つめる大気の声にいつもの張りがない事に疑問を持った二人は、一旦品定めをやめて大気を見遣る。

「アナキムってさ、なんで自分の身ごと封印したんだろうね」

 その唐突な言葉の意図が上手く掴めず、えんじぇるだすとはゆっくりと大気に歩み寄って、表情を伺う。

「えーと…」

 大気の表情はどこか悲しげな雰囲気を纏っていて、それこそ今にも涙が溢れんばかりのような瞳をしていた。

 えんじぇるだすとと一緒に大気の顔を伺ったゆなみーは、思いついたと言わんばかりに両手を叩いてジャラっと音を立てる袋を持ちあげた。

「ねぇねぇ!これから、ギランに品物売りに行くけど、大気も一緒に行こう?」
「へ?なんであたしまで?」
「いいから!いいから!」

 ゆなみーが何がしたいのか分かったらしいえんじぇるだすとは、ギランに行く事を渋る大気の腕を引っ張り、要塞の監督官の元へと連れて行く。

「監督官、ギランへの道を開いてください」
「お前達、またひっぱりまわしているのか」

 ゆなみーがギランへの道を開いてくれるように監督官に頼めば、彼は厳しい表情の中にいくらか面白そうな表情が混じっており、

三人を見遣ってから頷いてギランへ続く道を開く。

「ちょっと!あたし一言も行くって言ってないんだけど!?」
「いーから!」
「大気、あの二人には敵わないのだろう?諦めたほうがいい」

 監督官までもが笑いをこらえてそう言うと、大気は一言小さくしょうがないなぁ、と呟きえんじぇるだすとと共にギランへと渡った。


 夕刻を迎えていたギランは相変わらず人が多く、活気があった。けれど、その活気は今の大気にとっては耳障りな雑音でしかない。

 そういうことも分かっていた二人の友人は、大気に文句も言わせずに引っ張りまわしていた。

「(この二人を見ていると、本当に元気が出てきそうだから不思議なんだよね)」

 大気はふっと強張った顔を緩めて微笑むと、買い取り露店などを一緒に探して回った。

「はぁ!良い稼ぎだわ」

 ギランに出てきて終始ニコニコとしていたゆなみーに、大気はクスリと笑った。

「はい、二人とも」
「あ、ありがとー」
「お、いいものあるじゃん」

 大気は二人に、大広場の銅像前で最近できたお酒を売るワゴンから人数分のお酒を買って振る舞った。

 その行為を甘んじて受けて、三人は缶を一度カチンと鳴らしてプルタブを引く。

「おやおや、こんなところに三人そろって珍しい」
「あ、ヒュブナーだ」

 嬉しそうにゆなみーは飛び跳ねた、ヒュブナーはゆなみーとは良い友達なのだと、嬉しそうに語っていた事を大気は思いだした。

 重そうな麻の袋を一旦置いて、ごそごそと袋の中をあさっているのを見て、大気はまだ口を切っていないその酒缶をヒュブナーに見せた。

「ヒュブナーも、飲む?」
「ワシはあんまり酒は飲まんのだよ。気持ちだけ有難く受け取っておくとするよ」

 大気の誘いをやんわりと断った代わりに、「ほれ、受け取れ」と封筒を大気の手に乗せる。

「これで、女三人で遊んでくるといいだろうよ」

 大気は小首を傾げて、その洒落こんだ封筒をしげしげと見つめた。

 よっこらせ、と麻袋を背負いなおしたヒュブナーはまたギランの街の喧騒にのまれていった。

「これもって、あそこいこ」

 ヒュブナーの後姿を見送ったえんじぇるだすとは、既に酒缶を飲んでおり、立っているのもなんだからと階段を指差した。

「うん。んじゃオヤジお代ね」
「あぃよ、三本で1500アデナね」

 大気はワゴン売りのオヤジに、アデナとぽんと手渡すと気風のいい返事と爽やかな笑顔が返ってきた。

 三人は人を避け、召喚獣やペットを避けてのんびり歩いて階段にいって、上から二段目に横に並んで腰かける。






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