聴衆を眠らせてしまうような講演や授業を行うなら、それはほとんどの場合喋り手の責任である。「眠る」というのはほとんどの場合、積極的な行為ではない。眠ろうと思っていなかったのに眠ってしまうのは、話が退屈だったからに他ならない。
ではどうすれば聴衆を退屈させずに自分の話に集中し理解させることができるか、というと、これは話の内容だけでなく「話し方」による部分がかなり大きい。どんなに興味深い内容も話し方次第でいくらでも退屈になってしまうし、どんなに平凡な内容も話し方の工夫で見事に興味をそそらせることができるのだ。
私個人のことを言えば、長い間話し方というものにまるで興味がなかったというのが正直なところである。このことに関しては大きく分けて二回の転機があった。以下に述べるようなことを気にするようになったのは学生を卒業してからであり、それだけ周りに反面教師が多かったせいかもしれない。
第一に、大きな声で話すこと。大きな声はイヤでも耳に入ってくるし、眠気を覚まさせる効果もある。ただし、始めから終わりまで怒鳴り続けていればいいのではない。何よりも避けなければいけないのは単調さだ。例えば大切なことをちょっと小声で言ったりすれば、多くの人は耳をそばだてる。
第二に、適切に間をとること。「間」が重要なのは、文章で句読点の存在が欠かせないのと同じだ。適当な場所で呼吸をおき、話をわかりやすくすることが必要である。それだけでなく、ときどき長めの間をとると、多くの人は「あれ?」と思って耳をそばだてる。逆に不必要に間が多いと聴衆は眠くなる。
第三に、ゆっくり話すこと。好みもあるかもしれないが、始終早口でしゃべっていると聞き手は疲れてしまうだろう。あなたの早口についてゆけない人だって大勢いる。もちろん、ただゆっくりしゃべっていればいいのではない。
第四に、抑揚をつけること。普通にしゃべるときにもまして、オーバーにイントネーションをつけるのがよい。とにかく、何よりも避けなければいけないのは単調さだ。抑揚は単調さを解消し、話を理解しやすくしてくれる。
第五に、繰り返すこと。重要なところやフレーズを二度繰り返したり、別の言葉で言い換えたりする。繰り返されると印象に残りやすいことはもちろんだ。聴衆はあなたの話の七割くらいしかどうせ聞いてはいない。大切なことを二度いわないと、聞き漏らす可能性が高い。
第六に、身振り手振りをつけること。日本人は普段からあまり身振りをつけずに話をするが、どういうわけかアメリカ人は話している間ずっと手を動かしている。アメリカ人のことはこの際どうでも良い。講演などの際に身振りをつけることは言葉では表しがたい効果がある。
第七に、問いかけながら話すこと。聴衆はずっと受け身だ。受け身が続くと眠くなる。時折聴衆に問いかけて、ちょっと間を置く。そのホンの短い間だが、聴衆の脳は能動的に動き出し、覚醒する。自分なりの答えを探ったあとは、次の相手の出方に興味を持たずにはいられない。
以上のような技法とは別に、聴衆のレベルをつかんで置くことが重要だ。聴衆のレベルを過大評価してしゃべれば、聴衆はチンプンカンプンだ。過小評価してしゃべれば、やはり聴衆は退屈する。しかし同じ聴衆の中でも当然レベルにばらつきがあり、聴衆全員に合わせるのはほとんどの場合不可能だ。こういったことは一対多でしゃべるということが本質的に含んでいる問題なので、解決はできない。
いずれにしても、プレゼンテーションは以上のようなことをふまえた一種のパフォーマンスだ。必要に応じて図表で補強することも必要であろう。確かに図表は言葉よりも情報量を持っているが、それらは見る者が能動的に見た場合である。伝えたいことを伝えるにはあくまでも言葉が大切なのだ。語りかけて、熱弁し、説得する。これこそが本当に効果を重視したプレゼンテーションのあり方である。スライドを垂れ流してコメントを加えるだけのプレゼンテーションなら、それは話し手にとって「情報を伝えた」という事実を作り、それが成功したと錯覚するためのマスターベーションに過ぎない。
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